プロの世界に飛び込むと決めた日
「このままじゃ終われない」
そんな強い気持ちに突き動かされて、私はついに決断した。
「プロの寿司職人のもとで、修行しよう。」
趣味として続けてきた寿司と器の世界。
でも、ある日「プロポーズで私の寿司を使ってくれた」人の声を聞いてから、心に火がついた。
「誰かの人生の一場面を彩れる寿司を、本気で作ってみたい」
そう思った時点で、趣味は志に変わっていた。
断られ続けた日々
覚悟を決めた私は、都内の老舗寿司屋を片っ端から訪ねて回った。
「弟子にしてください」と、何度も頭を下げた。
でも、どのお店でも返ってくるのは厳しい言葉だった。
「趣味?甘い世界じゃないよ」
「覚悟がなきゃ、続かないよ、この業界は」
中には、目も合わせてくれない職人もいた。
それでも「本気だ」と思っていたから、諦められなかった。
だけど、心のどこかで限界が近づいているのも感じていた。
路地裏で見つけた希望
ある日、疲れ果てて歩いていた商店街の裏道。
ふと、目に留まった一軒の小さな寿司屋。
「すし○○」とだけ書かれた、年季の入った暖簾。
今までの老舗とは違って、どこか懐かしい空気をまとっていた。
店内を覗くと、無口そうな大将がひとり。
最後のつもりで扉を開けて、これまでのことと想いを語った。

しばらく黙っていた大将は、ふと私の手をじっと見つめてから、こう言った。
「明日から来い。ただし、寿司は握らせねえぞ。」
私は心の中で叫んだ。
「…やっと見つかった」
最初に与えられた仕事
翌朝。真新しい白衣に袖を通して、胸を高鳴らせて店に入った。
だけど、現実は甘くなかった。
私に与えられた最初の仕事は…
- 米研ぎ
- 雑巾がけ
- 床磨き

握るどころか、包丁すら触らせてもらえない。
毎日くたくたになるほど働いても、大将は何も言わない。
でも、それでも辞めたいとは思わなかった。
「これが、プロの世界なんだ」
その一日が、今でも自分の転機だったと思っている。
プロと趣味の決定的な違い
趣味で握っていた寿司は、あくまで楽しさが中心だった。
でも、プロの現場では、楽しさの前に責任と信頼があった。
- 時間を守る
- 完璧な清潔感
- 目配り・気配り
- 仕事への妥協ゼロ
そんな空気の中で過ごすうちに、私はだんだんと
好きだけでは乗り越えられない領域を体感していった。
「この店で、寿司を握れるようになった時、きっと私は変わっている」
そう信じて、目の前の地味な仕事に向き合い続けた。
✍️あとがき
華やかさも、優しさもない初日だった。
だけど、私はこの場所を選んでよかったと思っている。
この地味な1歩が、すべての始まりだったから。
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