【街で見かけたシリーズ 38話 深掘り】

街で見かけた企業シリーズ 深掘り

歌舞伎座の前で起きていた「街の異変」

この前、銀座を歩いていて、思わず足が止まった。人が多い。多いというより、溢れている。観光客っぽい人も、年配の人も、若いカップルもいて、みんな同じ方向を見ている。見上げると歌舞伎座。

「平日だよね?」と心の中でつぶやきながら通り過ぎたけど、あの密度がずっと引っかかっていた。歌舞伎って、もっと知ってる人の世界だと思ってた。なのに街の真ん中で、普通に行列ができている。


その場にいた人たちの顔が、なんというか難しいものを勉強しに来た人の顔じゃなかった。もっとこう、「ちょっと楽しみに来ました」みたいな、軽さがあった。街の空気が変わっているときって、だいたいこういう顔が増える。

歌舞伎は「守られている文化」じゃなくて「売り方がうまい文化」

歌舞伎と聞くと、伝統、格式、敷居が高い、そんな言葉が先に並ぶ。だけど、実際に街として見たとき、歌舞伎座はむしろ現代的だ。入り口がちゃんと用意されている。

たとえば、一幕見席。全部を通して観るんじゃなくて、1時間弱くらいで一部だけ観られる。いきなりフルコースじゃなくて、試食ができる。これ、体験コンテンツとして強い。

そしてイヤホンガイド。初心者が一番怖いのは「分からないまま置いていかれること」だけど、そこを最初から潰してくれる。誰が何者で、今何が起きていて、どこが見どころか。つまり、難しさを情報で薄めてくれる。

伝統を守る場所というより、伝統をちゃんと届く形にしている場所。こういう仕組みがあると、初めての人でも「一回行ってみようかな」に変わる。

「国宝」ブームで起きたのは、知識の流行じゃなく物語の流行

最近よく聞く「国宝」という言葉。ここで起きているのは、歌舞伎の知識が急に広まった、というよりも、「物語として触れてみたい」が増えた感じがする。

歌舞伎って、たぶん勉強してから行くものだと思われてきた。でも今は逆で、「分からなくてもいいから、まず空気を吸ってみたい」が勝っている。

これ、すごく大事な変化だと思う。知識はハードルになるけど、物語は入口になる。推し活だってそうで、最初は詳しくなくても「気になる」から始まる。街に人が溢れるときって、だいたいこの「気になる」が発火している。

価格の幅が広いからこそ「最初の一手」を書いておく

歌舞伎の値段って、正直ピンキリだ。だからこそ、初心者には最初の一手が大事になる。

一幕見席は、だいたい1,000円〜2,000円台。通しで観ると、4,000円台から2万円を超える席まで幅がある。ここだけ聞くと「やっぱり高いのでは?」ってなるけど、一幕見がある時点で話は変わる。

僕の感覚だと、まずは一幕見で十分だと思う。映画1本分くらいの金額と時間で、「歌舞伎ってこういう空気なんだ」が分かる。そこでハマったら、次に通しを考えればいい。最初から全部を理解しようとしなくていい。

街のコンテンツって、最初のハードルを下げられた瞬間に、いきなり人が流れ込む。歌舞伎座の前の行列は、その設計が効いている証拠に見えた。

歌舞伎で利益が出ているのは、誰か

街に人が溢れているとき、だいたい裏では「うまく回っている仕組み」がある。歌舞伎も例外じゃない。


まず中心にいるのが、歌舞伎の興行を担っている松竹だ。歌舞伎座の運営、興行、演目の企画から役者のマネジメントまで、長い時間をかけて歌舞伎で稼ぐ形を作ってきた会社でもある。

一幕見席やイヤホンガイドは、伝統を壊すものじゃなく、むしろ広げるための装置だ。入口を増やせば、母数が増える。母数が増えれば、次は「もう一度来る人」が生まれる。そうやって文化は続いていくし、ビジネスとしても成立する。

そして、利益が生まれているのは劇場の中だけじゃない。観劇前後の飲食、銀座という立地、インバウンドの回遊。歌舞伎座の前に人が集まるだけで、街全体が少しずつ潤う。

伝統芸能は「守られているもの」と思われがちだけど、実際には「ちゃんと回っているもの」でもある。人が集まる場所には、理由がある。歌舞伎座の前のあの行列は、その結果が目に見える形で表に出ていただけだった。

街で見かけたものは、だいたい「時代の答え合わせ」

歌舞伎は昔からあった。なのに今、歌舞伎座の前があんなに混んでいる。これは歌舞伎が変わったというより、たぶん「受け取り方」が変わったんだと思う。

伝統芸能というラベルから、体験コンテンツというラベルへ。知ってる人の世界から、行ってみたい場所へ。そういう移動が起きると、街の景色が変わる。

僕はたまたま通りすがりで見ただけだけど、あの密度は今の日本の強みみたいなものも感じた。昔の物語が、現代の仕組みで、ちゃんと人に届いている。

街は、ニュースより先に流行を教えてくる。今週の銀座は、その答え合わせをしてくれた気がした。

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