【私の趣味のストーリー 16話】 雑魚の教えと錆びない熱意

私の趣味のストーリー 裏話

🔻目次

雑魚の教えと、錆びない熱意 🔪🔥

「すし○○」に入って数ヶ月。

私の修行は、ひたすら米研ぎ・掃除・親方の背中を見て学ぶことが中心だった。

でも、諦める気にはなれなかった。

かつて、泥まみれになって畑で野菜と向き合った、あの頃の熱がまだ残っていたからだ。

親方からの一言で始まった初めての魚

ある日、親方がまな板の横を指差して言った。

「そこのやつ、捌いてみろ」

置かれていたのは、一山いくらの雑魚(ざこ)。

私は思わず「はい!」と返事し、自宅で使っていた出刃包丁を握った。

久々に感じる重みに、胸が熱くなる

けれど、すぐに現実は突きつけられた。

「何だその包丁の入れ方は!趣味でやってたのは知ってるが、店の魚をナメるな」

私は自己流だったことを、一瞬で見抜かれたのだ。

自己流との決別、プロの世界へ

「綺麗に捌く」ことだけを意識していた私に対し、親方は言った。

「寿司はな、米と魚の命の引き算だ。無駄な手間をかけるな。だが、必要な手間は惜しむな」

魚の締め方、血抜き、下処理

すべてに命への敬意がこもっていた。

自宅で遊び感覚で捌いていた私は、そこでようやく入口に立った気がした。

雑魚で積んだ、静かな反復練習

その日の閉店後、

親方に見つからないように、残った雑魚をひたすら練習した。

あの頃の自分に戻ったような気持ちだった。

1つ1つ包丁を入れるたび、魚の命と向き合っていることを実感した。

雑魚の味噌汁と、初めての承認

日後、私が捌いた雑魚で、親方が賄いの味噌汁を作った。

一口すすった親方は、無言のまま、鼻を鳴らすように言った。

「……身離れはマシになったな。だが、匂いが残ってる」

それは、初めての承認の言葉だった。

私は泥だらけで初めて野菜を収穫した日のことを思い出しながら、

静かに、でも確かな熱を持って、頭を下げた。

「ありがとうございます」

✨あとがき:雑魚は、先生だった。

雑魚「どうせ安い魚」と思っていた存在が、

実は私に一番大事なことを教えてくれた。

料理は、命を預かる仕事。

そして遊びから志しへと変わった瞬間でもあった。

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