店を持つって、夢みたいな言葉なのに。
いざ現実になり始めると、胸の奥にずっと「怖さ」が居座る。
第25話は、その怖さの正体に、ようやく名前をつけた日の話だった。
怖さの正体は、失敗じゃなかった
失敗が怖い。お金が怖い。忙しくなるのが怖い。
店をやるって決めた瞬間から、怖い理由は山ほどある。
でも、それらはどれも分かりやすい怖さだった。計算もできるし、対策も立てられる。最悪のケースを想像して、準備して、ちょっとずつ前に進める。
問題は、もっと言葉にしづらい怖さだった。
「もし、誰にも必要とされなかったらどうしよう」
それは、努力でどうにかなるか分からない。正解もない。誰かに相談した瞬間、形になってしまいそうで、ずっと胸の奥で黙らせてきた。
看板を出すということは、自分を差し出すこと
店を作るって、料理の話だけじゃない。
空間。時間。BGM。匂い。接客のテンポ。笑い方。間の取り方。
要するに「自分」がにじみ出る。
だからこそ、店は怖い。
会社員の頃は、どこかで守られている感覚があった。役割があって、肩書きがあって、ミスしても組織が吸収してくれる。
でも、店は違う。
「これが私です」と、看板にして出す。
そして選ばれなければ、静かに、何も起こらない。
誰かに否定されるより、誰にも選ばれない方が刺さる。そういう種類の痛みがある。
「大丈夫だよ」は嘘じゃない。でも全部でもない
「大丈夫?」って聞かれたら、私はたぶん笑って言う。
「大丈夫だよ」って。
それは嘘じゃない。
やるって決めたし、準備もしてるし、逃げるつもりもない。
でも、全部じゃない。
本当は、怖い。
怖いけど、言いたくない。言った瞬間に現実になる気がするから。
この「言いたくない」って感覚が、厄介で、でもすごく人間っぽいなと思う。
頭の中では何度も整理してるのに、口に出すと負けた気がする。弱さを認めたみたいで、急に自分が小さく見える。
だから黙る。
でも、黙ると、怖さは消えない。むしろ濃くなる。
まだ誰もいない店で、心の音がうるさくなる夜
夜、誰もいない店に一人でいると、店が広く感じる。

工事途中の空間は、音がよく響く。足音も、服が擦れる音も、自分の呼吸すら、やけに存在感を持つ。
まだ、お客さんの温度がない。
会話の残り香もない。
「ここは本当に店になるのか?」と、現実なのに、夢みたいに見える。
そしてその瞬間、胸の奥にいた問いが、やっと前に出てくる。
「もし、誰も来なかったら」
静かすぎる店内で、その言葉が落ちる。
落ちた音が、思ったより小さくて、逆に驚く。
この怖さ、ずっと巨大だと思ってたのに。声にしたら、ただの感情だった。
声に出した瞬間、怖さが現実から感情に変わった
不思議なんだけど、言葉にした瞬間、少しだけ楽になる。
怖さが消えるわけじゃない。
でも、隠さなくてよくなる。
言葉にしないことで守ってた自分が、ようやく休める。
そして、私は思う。
誰にも選ばれないかもしれない。
それでも、ここまで来た自分は消えない。
この時間も、この選択も、なかったことにはならない。
たぶん私は、成功したい以上に、「自分の選択を自分で肯定したい」んだと思う。
誰かの評価で自分の価値を決めたくない。……でも、決めてしまいそうになる夜がある。
その夜に、自分で自分に言える言葉を持っていたい。
怖いまま進む。それがいちばん正直な覚悟
覚悟って、もっと派手なものだと思ってた。
泣きながら決意するとか、拳を握って前を向くとか、そういうドラマみたいな瞬間。
でも実際は、もっと地味で、静かで、日常の中に埋まってる。
「それでも、やるんだな」
そう思えたことが、私にとっての覚悟だった。
怖さは消えない。
むしろ、怖さがあるからこそ、進む意味が生まれるのかもしれない。
完璧じゃない。自信満々でもない。
でも、店の灯りをつける日が来たら、私はここに立つ。
選ばれるかどうかは、正直わからない。
それでも、扉を開ける。
怖いまま進むって、弱さじゃなくて、いちばん人間らしい強さだと思う。
次回、第26話。
怖さは消えない。けど、時間は待ってくれない。
いよいよ、現実が動き出す。
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