No worriesの国で、肩の力が抜けた日。
ニュージーランドの空気は、最初の一呼吸から違った
ニュージーランドの空港を出た瞬間、思っていたよりも涼しい風が頬を撫でた。
南半球の春は、空気までやわらかい。ふわっと肺の奥まで入り込んでくる感じがした。

バス停のベンチに腰を下ろすと、目の前を通り過ぎていく人たちが、みんなゆっくり歩いているのが分かった。
誰も小走りになっていない。誰もイライラしていない。
時計の針さえ、ちょっとだけゆっくり回っているように見えた。
日本を出る前の私は、いつも時間に追いかけられていた。
乗り換え時間、締め切り、周りの空気。
「遅れたら迷惑をかける」「ちゃんとしていないと思われる」
そんな言葉が、頭の中をぐるぐる回っていた。
でも、この国の空気は、最初の一呼吸から違った。
「急がなくていいよ」と、街全体に言われているような、不思議な感覚だった。
うまく話せない日本人と、「No worries, mate.」
最初の試練は、スーパーのレジでやってきた。
慣れない現地通貨、並んでいる人の列、英語のアナウンス。
それだけで、胸のあたりがきゅっと固くなる。
私の番になって、店員さんに話しかけようとしたとき、口から出てきたのは、ぎこちない一言だった。
「Excuse me… Can I… uh…」
その先の言葉が出てこない。頭の中では英文がぐるぐるしているのに、声にならない。
「あ、詰まった」と思った瞬間、その男性店員はくしゃっと笑ってこう言った。
No worries, mate.
その笑顔に、すべてを許されたような気がした。
「大丈夫、大丈夫。ゆっくりでいいよ。」
言葉にしなくても、そう言ってくれているのが伝わってくる。
発音は柔らかくて、まるで風みたいだった。
その一言で、胸の奥に固まっていた緊張が、少しずつ溶けていくのが分かった。
「急がない」ことが、こんなにも心地いいなんて
それから気づいたのは、この国の人たちは本当に「急がない」ということだった。
レジで前の人が時間をかけていても、後ろに並んでいる人は、ため息をつかない。
バスが数分遅れても、誰も舌打ちしない。

バスに乗り間違えてしまった日も、運転手さんに勇気を出して話しかけたら、
「No worries, we can fix it.」と笑いながらルートを教えてくれた。
「なんでそんなに余裕なんだろう」と、不思議になるくらいだった。
日本では、こうはいかない。
駅で乗り換えを間違えたら、自分を責める。
列に並んでいてモタモタしていたら、「すみません」と何度も頭を下げる。
誰にも怒られていないのに、勝手に自分で自分を怒ってしまう。
でも、この国では、失敗しても「人間だもんね」という前提で話してくれる人が多かった。
それがこんなにも心に優しいんだと、初めて知った。
日本でずっと欲しかった言葉は、「もっと頑張れ」じゃなかった
日本にいた頃の私は、いつも周りに合わせて動いていた。
誰かに迷惑をかけないように。
期待を外さないように。
「ちゃんとしている人」でいようとして、いつの間にか息をひそめるのが癖になっていた。
もしあの頃の自分に、誰かがこう言ってくれていたらどうだろう。
「多少ミスしてもいいよ」「うまく言えなくても、大丈夫だよ」
それだけで、救われた日がきっとあった。
No worries.という言葉は、直訳すれば「心配しないで」。
でも私にとっては、それ以上の意味を持っていた。
「君はそのままでいいよ」と、背中をそっと支えてもらったような感覚だった。
日本でずっと欲しかったのは、「もっと頑張れ」という言葉じゃなかった。
「もう頑張ってるよ」「少し休んでもいいよ」
そんな、力を抜かせてくれる言葉だったのかもしれない。
少しずつ、肩の力を抜いて生きてみる
空港からのバスの窓から見える海は、信じられないほど青かった。
あの空の向こうに、これからの自分がいる気がした。
ここなら、少しずつでも変われるかもしれない。
失敗しても、「No worries.」と言って笑える自分になれるかもしれない。
そう思いながら、私は深く息を吸い込んだ。
肩の力を抜くって、最初はちょっと怖い。
「サボってると思われないかな」「ちゃんとしてないって言われないかな」
そんな日本で身につけたクセが、まだ頭の中に残っている。
それでも、ニュージーランドのゆっくりした時間の中で、私は少しずつ学んでいった。
完璧じゃなくていいこと。
うまく言えない自分も、ここにいていいこと。
そして、「大丈夫だよ」という一言が、人の心をどれだけ軽くするかということを。
この国の風のように、私も誰かに「No worries.」と言える人になりたい。
そう思ったとき、長いあいだ固まっていた心が、少しだけ前に進んだ気がした。
✈️ 次回:誰も急がない街で、焦る自分に気づく。
止まっているようで、ちゃんと前に進んでいた
そんな気づきの話を書いていきます。
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